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自転車は走行禁止です

自転車は走行禁止です
看板語の世界(1)

松野町夫 (翻訳家)

看板語の世界がおもしろい。「看板語」とは、ここではとりあえず、看板や掲示板、案内板、道路標識などに記載された文言、と定義しておこう。看板は一般的に不特定多数の人に何らかの情報を伝えるものであり、看板語は当然のことながら、簡単でわかりやすい印象的な語句が使用される場合が多く、言語研究には申し分のない教材となる。

JR 指宿枕崎線の谷山駅は現在、駅前広場の整備工事が進行中である。駅前通路には次のような看板が掲示されていた。この掲示は日本語と英語のバイリンガル版である。

b0129120_1117281.jpg【自転車走行禁止の看板(筆者撮影)】

この看板から文言だけを書き出すと、以下のようになる。

自転車は走行禁止です
NO CYCLING ALLOWED
WALK YOUR BIKE
歩行者との接触などによって重大な危険事故をまねきます。
降りて通行して下さい

まず、以下の3つの和文から検討する。今回のテーマは、「主題」。英語は主語で始まるが、日本語は「~は」で始まる場合が多い。「~は」は主題を示す。

自転車は走行禁止です
歩行者との接触などによって重大な危険事故をまねきます。
降りて通行して下さい

上記の3つの和文の主題はいずれも、「自転車は」である。最初の文で「自転車は」と明記したので後続の文の主題は省略できる。つまりこの看板の掲示は、「自転車は」という主題で統一されているのだ。

自転車は走行禁止です
(自転車は)歩行者との接触などによって重大な危険事故をまねきます。
(自転車は)降りて通行して下さい

「~は」は主題を示し、「~が」は主格を示す。こうした「~が」や「~は」を主語とする見方もあるが、この小論は、日本語に主語はなく、代わりに、主題と主格があるという立場である。たとえば、「太郎は色が黒い」の場合、主語がふたつあるのではなく、「太郎は」を主題、「色が」を主格とする見方である。

つぎに、英文を検討し、英語の主語と日本語の主題を比較してみよう。

NO CYCLING ALLOWED
No cycling (is) allowed. = Cycling (is) not allowed. (be 動詞は省略可能)
意訳: 自転車は走行禁止です。(直訳: 自転車に乗って行くことは禁止されています)

英語の主語 → cycling (自転車に乗って行くこと)
日本語の主題 → 「自転車は」

英文には主語が不可欠だ。この例では、主語は No cycling または Cycling である。サイクリング(cycling)とは、自転車に乗って行くこと、または自転車で遠出することの意。
cycle = to ride a bicycle; to travel by bicycle

「自転車は降りて通行して下さい」は、英語でどういうの?と問われて、即座に Walk your bike. と言える人はエライ。英語の walk は「歩く」という自動詞のほかに、「歩かせる」という他動詞がある。

WALK YOUR BIKE
Walk your bike. = (You must) walk your bike.
自転車は降りて通行して下さい。(直訳: あなたの自転車を歩かせなさい)

バイク(bike)は日本語では「オートバイ」を意味するが、英語では自転車(bicycle)を意味する。
Walk your bike. は命令形。英語の命令形の主語はyou である。命令形では主語 you はたいてい省略される。

英語の主語 → you 
日本語の主題 → 「自転車は」

英語の主語と日本語の主題は異なる。和文英訳すると、主題と主語が一致する場合が多いが、今回のように一致しないこともある。



by LanguageSquare | 2019-04-23 11:15 | 看板語 | Comments(0)