「は」と「が」

「は」と「が」
「は」は 対比、限度、留保付き肯定、部分否定を示し、「が」は 排他を示す

松野町夫 (翻訳家)

英語は主語で始まるが、日本語は「~は」や「~が」で始まる場合が多い。「~は」は主題を示し、「~が」は主格を示す。たとえば、日本昔話『桃太郎』は次のように始まる。

むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさん住んでいました。
おじいさん山へ芝かりに、おばあさん川へ洗濯に行きました。
おばあさん川で洗濯をしていると、ドンブラコ、ドンブラコと、大きな桃流れてきました。
おばあさん大きな桃をひろいあげて、家に持ち帰りました。

こうした「が」や「は」を主語とする見方もあるが、この小論は、日本語に主語はなく、代わりに、主題と主格があるという立場で書いたもの。たとえば、「あのスーパーは水曜日が休みです」の場合、主語がふたつあるのではなく、「あのスーパーは」を主題、「水曜日が」を主格とする見方である。

■主題を示す「は」:

「~は」は「ワ」 [wa] と発音するが、「は」と書くのがルール。1946年の内閣訓令で、(2) 助詞〈は〉は、ワと発音するが〈は〉と書くことを本則とする、と決められた。

日本語文法では、「は」を係助詞(または副助詞)に分類する。係助詞「は」は種々の語に付き、その語が主題(題目)であることを示す。

「は」の働き
1. 格助詞を代行して主題を示す。
2. 対比、限度、留保付き肯定、部分否定、否定の焦点を示す。

「~は」は 主題を示す
「は」は、格助詞「が・の・を・に …」を代行または付随して、その直前の語を主題として提示する。

地球が丸い。 → 「が」を代行 → 地球は丸い。
象の鼻が長い。 → 「の」を代行 → 象は鼻が長い。
大阪に明日行きます。 → 「に」を代行 → 大阪は明日行きます。
その映画をもう見ました。 → 「を」を代行 → その映画はもう見ました。
(以下同様)

主題の種類: 「は」が代行する格助詞の型をベースに分類した。

主格「が」型: 地球は丸い。彼は学生です。花は美しい。 → 「主格型」=主語
属格「の」型: 象は鼻が長い。山田さんは、奥さんが入院中です。
対格「を」型: その映画はもう見ました。朝食はもう食べました。 → 「対格型」=目的語
位格「に」型: 大阪は明日行きます。富士山(に)は登らなかった。
与格「へ」型: 母へは手紙を書くつもりです。高台へはロープウエーを利用します。
奪格「から」型: ここからは富士山がよく見えます。四時からはあいています。
具格「で」型: あなたの時計ではいま何時ですか。顕微鏡なしでは観察できません。
共格「と」型: 母とはよく買物に行きます。父とは外出したことがあまりありません。
時の格型: 日曜日は昼まで寝ています。きょうは会社に行きます。

このように「は」は、格助詞「が、の、に、を …」を代行しながら、主題を示すことができる。「は」は、一人二役どころか、一人十役ほどの働きぶりである。これが「は」の長所であり、同時に、短所でもある。たとえば、ほんの一例ではあるが、「彼は知っています」という表現は、「(それについては)彼が知っています」と、「(私は)彼を知っています」という二つの解釈が可能となり、混乱が生ずる場合がある。

「は」は 対比、限度、留保付き肯定、部分否定、否定の焦点を示す
母とはよく買物に行きますが、父とは外出したことがありません。 → 対比
イベントは午後3時には開始する予定です。 「午後3時には」 → 限度
買ってはみた。(が、ほとんど使い物にならなかった)。「買っては」 → 留保付き肯定
仕事はやりがいはある。(が、残業が多すぎる) 「やりがいは」 → 留保付き肯定
両方はいらない。(片方だけほしい) → 部分否定
全員は来なかった。(一部の人が来なかった) → 部分否定
全員が来なかった。(誰も来なかった) → 全体否定
車は急には止まれない。(止まるが、時間がかかる) 「急には」 → 否定の焦点

■主格を示す「が」:

「~が」は、鼻濁音なので「ンガ」 [ŋ] と発音するが「が」と書く。ただし西日本では、鼻濁音を使用する習慣がなく、「が」 [ga] と濁音で発音する人が多い。

日本語文法では、「が」を格助詞に分類する。格助詞には「が、の、に、を …」などがある。格助詞「が」は主として名詞に付き、その名詞が主格(≒主語)であることを示す。「が」は述語に係る場合と、名詞に係る(名詞と名詞をつなぐ)場合がある。

「が」の働き

1. 「が」は主格を示し、述語に係り、そのまま文を終結させる(現象文)。
 鳥が空を飛ぶ。雪が降り始めた。風が吹く。水が冷たい。 → 述語に係る

 
2. 「が」は 名詞と名詞をつなぐ。つないだ時点で役目を終える。
 天気がいい日には散歩する。 「が」は「天気」と「日」までをつなぐ → 名詞に係る
 娘が作ってくれた弁当を食べた。 「娘」と「弁当」までをつなぐ → 名詞に係る

3. 「が」は 排他を示す
 田中さんが学生です。(他の人は学生ではありません。) → 排他的

「~が」は主格を示す。主格は英語の主語に相当する。しかし相当はするが、完全に同一ではない。主格「が」には、少なくとも 4 種類の用法があり、このうち能動主格は英語の主語に相当するが、残りの主格は主語に相当しないか、または相当しない場合もありうる。

主格の種類
能動主格: 彼がペンをくれた。雨が降る。人が通る。空が青い。桜が満開だ。
対象主格: 水が飲みたい。寿司が好きだ。彼女は数学ができる。漢文が読める。
所動主格: 私に良い考えがある。机の上に本がある。音楽がわかる。姿が消えた。
部分主格: 象は鼻が長い。太郎は色が黒い。京都は秋がいい。兄は背が高い。
by LanguageSquare | 2018-12-14 09:41 | 日本語の構造 | Comments(0)