関係詞雑感

関係詞雑感
先行詞は被修飾語に相当し、関係詞節は修飾語に相当する

松野町夫 (翻訳家)

英語には関係代名詞(who, which, that)や、関係副詞(where, when, why, how)などの関係詞があるが、日本語に関係詞はいっさいない。しかし関係詞を含む英文(=関係詞節)を和訳したり、逆に、和文を関係詞を含む英文に英訳したりすることができる。これはつまり、日本語には関係詞はないが、先行詞や関係詞節に相当するものは存在するということを示している。

ここで、the boy who broke the window 「窓ガラスを割った少年」を例にとる。
英文法的には、boy が先行詞で、who が関係代名詞、who broke the window が関係詞節である。これに対して国文法的には、「少年」は被修飾語で、「窓ガラスを割った」は修飾語、もっと正確にいうと、文章形式の連体修飾語である。

先行詞 ”boy” = 被修飾語「少年」
関係詞 ”who” = なし
関係詞節 ”who broke the window” = 修飾語「窓ガラスを割った」

先行詞は被修飾語に相当し、関係詞節は修飾語に相当する。修飾語の配置について、日本語では修飾語は常に被修飾語の前に置かれるのに対して、英語では関係詞節は常に被修飾語(=先行詞)の後に置かれる。つまり、日本語の修飾語は常に前置修飾語であるのに対して、英語の関係詞節は常に後置修飾語である。

窓ガラスを割った」少年 → 日本語の修飾語は常に前置修飾語
the boy “who broke the window” → 英語の関係詞節は常に後置修飾語

ちなみに、日本語の修飾語は前置修飾語の一種類しかないが、英語の修飾語は前置修飾語(premodifier)と後置修飾語(postmodifier)の二種類がある。たとえば
セレブとは有名人のことです。
A celebrity is a famous person. → 英語の形容詞は、通常、前置修飾語
A celebrity is a person who is famous.  → 英語の関係詞節は常に後置修飾語

以下は、英語の「ストレッチャー」と日本語の「担架」を英英辞典と国語辞典でそれぞれ定義したものである。英語は先行詞(device, frame, bed)の後に関係詞節、日本語は被修飾語(道具、用具、器具)の前に修飾語が配置されているのが一目瞭然だ。日本語はふたつの文で定義したものもあるが、英文はすべてひとつ。一般に英語は関係詞のおかげで、長文に対しても言語的に安定した構造を持つ。

stretcher
· a device that is made of a long piece of thick cloth stretched between two poles and that is used for carrying an injured or dead person. [メリアム・ウェブスター英英辞典]
· a covered frame for carrying someone who is too injured or sick to walk. [LAAD2]
· a type of bed used for carrying someone who is injured, ill, or dead. [MED2]
· a long piece of strong cloth with a pole on each side, used for carrying sb who is sick or injured and who cannot walk. [OALD7]
· a long piece of canvas with a pole along each side, which is used to carry an injured or sick person. [COBUILD English Dictionary]

担架
· けが人や病人をのせてはこぶ道具。【学研 小学漢字辞典】
· 傷病者をのせ、手でになって運ぶ道具。【岩波国語辞典】
· けが人・病人などをのせて、人が手で運ぶ用具。stretcher.【日本語大辞典】
· 病人・負傷者などを乗せて運ぶ道具。普通、二本の長い棒の間に布を張ったもの。【大辞林】
· 病人、けが人を人の力で持ち上げて運ぶ運搬用具で、脚、車輪はない。【日本大百科全書】
· 病人や負傷者を搬送するため枠に麻布などを張った持ち手部分をもつ器具。【ウィキペディア】

関係詞を含む英文(=関係詞節)の翻訳はやっかいだ。短文はともかく長文となると苦労する。これは、日本語に関係詞がないことや、関係詞節が常に日本語と反対の語順、後置修飾語となることに由来する。関係詞節(とくに制限用法)は、頭から訳していくことができない場合が多い。

以下に、ニューヨークタイムズの2018年5月4日のニュース速報を引用する。見出しは 2つの英文から成る。二番目の文に関係詞が出てくる。”The academy that picks a winner” の academy が先行詞で、that が関係代名詞(制限用法)である。

The Nobel Prize in Literature will not be awarded this year. The academy that picks a winner has been engulfed in a sex abuse scandal.

ノーベル文学賞、今年の受賞者発表を見送る。文学賞を選考するアカデミーは現在、性的虐待スキャンダルの渦中にある。(参考訳)

上記はいずれも短文なので翻訳に問題はない。問題となるのは、以下の本文である。この英文はひとつの文なのにかなり長く、しかも関係詞がふたつ(when, that)出てくる。ちなみに、when は関係副詞(非制限用法)で、that は関係代名詞(制限用法)ではあるが、making this のthis を先行詞として関係副詞的に用いてある。

The Swedish Academy said it would postpone the 2018 award until next year, when it will name two winners, making this the first year since World War II that the panel has decided not to bestow one of the world’s most revered cultural honors.

この英文をひとつの和文にまとめるのは至難の業だ。無理してひとつにまとめたとしても、日本語として読みづらい文章になるおそれがある。こうした関係詞を含む長文の英和翻訳の場合、意味のまとまりごとに、いくつかの文に分割してから訳していくのが一番簡単な方法だ。ここでは、たとえば、みっつに分割する:

The Swedish Academy said it would postpone the 2018 award until next year.
スウェーデン・アカデミーは2018年文学賞の発表を来年に先送りすると発表した。
Next year it will name two winners.
来年、受賞者を発表する際に今年の受賞者も合わせて公表する。
It will be the first year since World War II that the panel has decided not to bestow one of the world’s most revered cultural honors.
世界で最も栄誉ある賞のひとつを今年は授与しないとなると、これは第二次世界大戦以来初めての事態となる。

このように分割してから訳し、最後に分割した訳文をつなぎ合わせてまとめる。

スウェーデン・アカデミーは2018年文学賞の発表を来年に先送りすると発表した。来年、受賞者を発表する際に今年の受賞者も合わせて公表する。世界で最も栄誉ある賞のひとつを今年は授与しないとなると、これは第二次世界大戦以来初めての事態となる。(参考訳)
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by LanguageSquare | 2018-05-29 10:09 | 関係詞 | Comments(0)