「は」は有題文を導き、「が」は無題文を導く
松野町夫 (翻訳家)
日本語の文は、「~は」または「~が」がリードする。「~は」は主題を示し、「~が」は主格を示す。主題を示す「は」のある文を有題文(または主題文)、「は」のない文を無題文という。無題文は一般に、主格を示す「が」はあるが、主題を示す「は」はない。
ただし、文脈や情況から主題が自明で、省略しても誤解が生じない場合、主題は省略できる。主題が省略された文を略題文という。略題文は形式的には無題文だが、実質的には有題文なので有題文として扱う。また、「は」と「が」が一つの文にでてくる「ハ・ガ文」は、有題文として扱う。
これは私の本です。彼は学生です。 → 有題文
雨が降っています。雪が降ってきた。風が止んだ。 → 無題文
(あなたは)ゆうべ、ぐっすり眠れましたか。 → 略題文(=有題文)
象は鼻が長い。私は体重が60キロです。 → ハ・ガ文(=有題文)
有題文は伝統的な文型で、文学や名言・ことわざなどにも愛用され、現代でも使用頻度が最も高い。
春はあけぼの。夏は夜。秋は夕暮れ。冬はつとめて(早朝)。(枕草子から)
人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵。(武田信玄の名言)
「善は急げ」。「時は金なり」。「短気は損気」。「旅は道連れ、世は情」。(ことわざ)
彼は学生です。彼女は美しい。このあたりは静かだ。朝食は食べました。
有題文は基本的に解説文(説明文)である。基本文型は主題+解説。たとえば、「彼は学生です」や「朝食は食べました」の場合、「彼は」「朝食は」が主題で、「学生です」「食べました」が解説となる。
有題文は述語の品詞をベースに、名詞文、形容詞文、動詞文の3種類に分類できる。形容動詞(静かだ)は、ナ形容詞として形容詞に分類する。
有題文の種類 (述語の品詞をベースに分類)
彼は学生です。 → 名詞文
人は城(だ)、人は石垣、人は堀。時は金なり。短気は損気。
彼女は美しい。 → 形容詞文
春はあけぼの(がいい)。夏は夜(がいい)。きょうは風が強い。このあたりは静かだ。
朝食はもう食べました。 → 動詞文
お勘定はもう済ませてあります。日曜日は昼まで寝ています。きょう(私は)学校に行きます。
無題文は、任意の語を「は」で主題にすることで、有題文に変換できる。たとえば、
きのう彼の個人情報がネットに出回った。 → 無題文
きのうは、彼の個人情報がネットに出回った。 → 有題文
ネットには、きのう彼の個人情報が出回った。 → 有題文
彼の個人情報は、きのうネットに出回った。 → 有題文
無題文(現象文)
無題文は一般に、主格を示す「が」はあるが、主題を示す「は」はない。無題文は現象(動き)を表すことが多いので現象文(または現象描写文)ともいう。
無題文の種類
無題文は、目の前の現象(動き)をそのまま述べるので、動詞文が圧倒的に多い。
隣りが火事だ! → 名詞文
あ、雨だ!見て、雪だよ。あ、停電だ!
空が青いですね。 → 形容詞文
(見て、)虹がきれい。空気がおいしいですね。うわー、水が冷たい!
雨が降っている。 → 動詞文
風が吹いていた。雨雲が広がってきた。雪が降ってきた。雪が積もった。
以下は、動詞文を主体別に配置したものである。
自然、無生物:
雨が降る。風が吹く。桜島が噴火した。噴煙が火口から3000メートルの高さまで上がった。
台風が西日本に上陸した。台風の影響で潮位が高まっている。岩肌が露出している。
動物、植物:
犬が庭をかけまわっていた。猫が日なたで毛づくろいをしている。
梅のつぼみがほころび始めた。桜が咲いた。リンゴの花びらが風に散った。
人間、生活:
子供たちが遊んでいる。数人が堤防沿いをジョギングしていた。昨夜田中さんがうちに来た。
お祭りに大勢の人が参加した。近所にコンビニがオープンした。大雪で交通が停滞していた。
政治、経済、外交:
新内閣が発足した。株安への懸念が高まっている。予算が初めて100兆円の大台を突破した。
徴用工問題や慰安婦財団の解散などを巡って日韓関係が冷え込んでいる。
存在:
公園に子供たちがいる。机の上に本がある。明日会議があります。来週試験がある。
高速道路で事故があった。きのう熊本県で震度 6 弱の地震がありました。
ハ・ガ文
「は」と「が」が一つの文にでてくる「ハ・ガ文」は、有題文なので基本的に解説文であるが、無題文(現象文)に近いものもある。
主体: きょうは雨が降った。今週は桜がきれいだ。24日の欧米市場では株安が加速した。
対象: 今は水が飲みたい。私は寿司が好きだ。兄は漢文が読める。
存在: 私には良い考えがある。机の上には本がある。その日は事故がなかった。
部分: 象は鼻が長い。太郎は色が黒い。京都は秋がいい。
関係: 山田さんは、奥さんが入院中です。「対応策」は外国人の生活支援策が柱になる。