代名詞: "it" と "one" の違い
それ、"it" じゃなくて "one" ですよ!
ことば (28) 代名詞: "it" と "one" の違い

松野町夫 (翻訳家)

英語は同じことばを繰り返すのをきらう。日本語にもこの傾向は多少あるが、英語ほどではない。たとえば、「私には娘が一人いる。娘の名前は牧子。牧子は中学校の英語の先生である」というように、日本語では「娘」や「牧子」などを繰り返しても、特におかしな感じはしない。しかし英語では、 "I have a daughter. The daughter's name is Makiko. Makiko teaches English at junior high school." とは英米人はまず表現しない。

同じことばの繰り返しを避けるため、通常、she とか her などの代名詞を使用する。
娘の名前は → Her name (not the daughter's name)
牧子は ... → She teaches ... (not Makiko teaches ...)

私には娘が一人いる。娘の名前は牧子。牧子は中学校の英語の先生である。
I have a daughter. Her name is Makiko. She teaches English at junior high school.

英語は同じことばを繰り返さない。これは異常なほど徹底している。代名詞に限らず、動詞でも代動詞 (do) や助動詞 (will, do, etc.) を使用して同じ動詞の繰り返しを避ける。 Do you know her? と質問されると、Yes, I do. (or No, I don't.) と答える。 Yes, I know her. とはあまり言わない。私たち日本人からすれば、「いいじゃないか、同じことばを繰り返したって、それで誤解が生ずるわけでもあるまいし…」などと文句のひとつも言いたくなる。ここがしかし、文化の違い、英語のおもしろいところでもある。

I/you/he/she/we/this/that/it/they などはお馴染みの代名詞で、特に難しいものではない。しかし、不定代名詞の "one" (or ones) は日本人は苦手である。"one" を使用すべきところを、まちがえて "it" という人が多い。そこで今回は、代名詞の "one" に焦点をあて、"it" との違いを検討したい。

ペンをなくしちゃった。買わなきゃ。
I've lost my pen. I must buy one. (not I must buy it)

この場合、"one" = a pen, "it" = the pen、つまり I must buy one. (= I must buy a new pen.) の意味。"it" は常に、可算名詞(の単数形)に、または不可算名詞に定冠詞を付けたもの "the thing" に等しい。しかし "one" は、a small one, big ones, this one, the one, the red one というように、状況に応じて不定冠詞 "a, an" だけでなく、定冠詞 "the" が付く場合も多い。

僕はペンを持っていない。君は持っているかい?
I don't have a pen. Do you have one? (not Do you have it?)

彼は車を持っていてそれで通学する。 ぼくも車が欲しい。
He has a car and drives it to school. I want one, too. (not I want it, too)

Have you seen a panda? (パンダを見たことがある?)
I saw one in the Ueno Zoo a few years ago. (2、3年前、上野動物園で見たよ。)

I saw it ... はまちがい。これは、「私はそのパンダを見た」という意味。たとえば、動物園から逃げ出したそのパンダなどの場合には使用できるが、不特定のパンダの場合は I saw one... と言う。

Have you ever seen iguanas? (イグアナを見たことがありますか?)
Yes, I've seen a big one before, crossing a riverside road in Malaysia.
(はい、以前、マレーシアで川辺の道路を横切っている大きなやつを見たことがあります。)

A: What are you eating? (何を食べてるの?)
B: Apple. Do you want one? (りんご。欲しい?)

これを Do you want it? と言うと、「今、食べかけのりんごが欲しいの?」という意味(オエー、気持ち悪い)。くれぐれもご用心を。ただし、親子、兄弟、恋人ならそれもありますね。

ちなみに、単数形の "one" や複数形の "ones" が使えるのは可算名詞のみ。不可算名詞、たとえば水やジュース、ミルクなどには当然のことながら使用できない。不可算名詞の場合は "some" を使用する。

A: What are you drinking? (何を飲んでいるの?)
B: Apple juice. Do you want some? (りんごジュース。欲しい?)

英語は同じことばを繰り返さない。英米人がこの原則にどれほどこだわっているかは、以下の各英文を読めば実感できる。 "one" または複数形の "ones" に注目する。

マイホームを探しているんだけど、気に入った家がまだ見つからない。
We've been looking at houses but haven't found one we like yet.

我が家はその学校の隣りの家だ。
Our house is the one next to the school.

彼らは犬を3 匹飼っている。 2 匹は大型犬、1 匹は小型犬だ。
They keep three dogs, two large (ones), and one small (one).

この工場は閉鎖しますが、新しい工場を2棟、九州に建設中です。
We're closing this factory but building two new ones in Kyushu.

この写真を除けば、他の写真はすべて好きだ。
I like all the pictures except this one.

私はアイスクリームにするけど、あなたもそうする?
I'd like an ice cream. Are you having one, too?

うちの車はしょっちゅう故障ばかりしている。でも近いうちに新車を買うつもりだ。
Our car is always breaking down. But we are getting a new one soon.

彼女、例の新しいドレスを着ていたわよ、あの赤いドレスよ。
She was wearing her new dress, the red one.

私の推測はほぼ的を射ていたことが判明した。
My guess turned out to be a good one.

にもかかわらず、この問題は重要な問題である。
Notwithstanding, the problem is a significant one.

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by LanguageSquare | 2008-07-23 10:12 | 代名詞 | Trackback | Comments(2)
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Commented by at 2013-01-08 12:35 x
初めまして、「草原の輝き」を検索していてこちらにヒットしました。
自分はエッセイ、詩をメインにしたブログを書いています、インドネシアに住んでいるので、ボランティアで日本語を教えた経験等もあり、言葉に対する関心は人一倍強いと思っています。
こちらの記事を拝読し、「it」と「that」に使い分けがあるとしたら教えて頂きたいと思います、ちなみに英国人の先生に聞いたところ慣用的に使っているのでうまく説明できないと言われました。
よろしくお願いいたします。
Commented by Chi at 2013-10-07 20:32 x
英語のの復習をしていて、itとoneに引っかかってしまい、ヒントを探していて,お邪魔いたしました。
解説は非常に端的で分かりやすく、例文もとても豊富で理解に役立ちました。ありがとうございます^^
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