日本語と英語の修飾語を比較する

日本語と英語の修飾語を比較する
主要語、前置修飾語、後置修飾語、複合修飾語

松野町夫 (翻訳家)

修飾語とは、他の語を修飾(説明)するために付け加える語をいう。たとえば、「赤い花」の場合、「赤い」が修飾語で、「花」にかかる。「ゆっくり歩く」の場合、「ゆっくり」が修飾語で、「歩く」にかかる。「花」や「歩く」は修飾されている語なので被修飾語と呼ぶ。品詞的には、「花」は名詞、「歩く」は動詞である。日本語では、体言(名詞)を修飾するものを連体修飾語と呼び、用言(動詞や形容詞)を修飾するものを連用修飾語と呼ぶ。

連体修飾語: 赤い花、遠い国、静かな街、この本、私の親友 (アンダーラインが修飾語)
連体修飾語になれるのは、形容詞(赤い・遠い)と、形容詞相当語、たとえば、形容動詞(静かな)、連体詞(この)、名詞(私)+格助詞(の)など。ちなみに、上記の修飾語を英訳すると、red, far, quiet, this, my となり、英語でも形容詞か形容詞相当語である。英語ではこれらを形容詞的修飾語と呼ぶ。

連用修飾語: ゆっくり歩く、かなり遠い、とても静かだ 美しく咲く
連用修飾語になれるのは、副詞(ゆっくり・かなり・とても)や形容詞の連用形(美しく)である。ちなみに、上記の修飾語を英訳すると、slowly, quite, very, beautifully となり、いずれも副詞である。英語ではこれらを副詞的修飾語と呼ぶ。

修飾語は、おそらく世界のどの言語にも存在する普遍的な概念であろう。しかし概念は同じでも、その文法、つまり見方・配置・語順などは当然のことながら言語により異なる。ここでは日本語と英語の修飾語を比較し、類似点や相違点を検討する。

英語では修飾語は modifier [mɑ́dǝfàiǝr] モディファイアという。
modifier: noun [countable] → LAAD2英英辞典から引用
a word or group of words that give additional information about another word. Modifiers can be adjectives (such as "fierce" in "the fierce dog"), adverbs (such as "loudly" in "the dog barked loudly"), or phrases (such as "with a short tail" in "the dog with a short tail").

【筆者訳】修飾語とは、ある単語に情報を追加する語のこと。修飾語になれるのは、形容詞、たとえば「どうもうなその犬」の「どうもうな(fierce)」とか、あるいは副詞、たとえば「その犬はけたたましく吠えた」の「けたたましく(loudly)」とか、または句、たとえば「尻尾の短いその犬」の「尻尾の短い(with a short tail)」とかである。

英英辞典の定義から、修飾語の概念は日英とも同じであることがわかる。英文法では一般に、名詞を修飾するものを形容詞的修飾語と呼び、動詞・形容詞・副詞を修飾するものを副詞的修飾語と呼ぶ。

形容詞的修飾語: a pen, the pen, a stone house, a nice house, a dog with a short tail
形容詞的修飾語になれるのは形容詞(nice)と、形容詞相当語、たとえば、冠詞(a, the)、名詞(stone)、形容詞句(with a short tail)、形容詞節などである。形容詞的修飾語は連体修飾語に相当する。形容詞的修飾語=連体修飾語。

副詞的修飾語: walk slowly, work hard, it looks like an orange, even more, very hard
副詞的修飾語になれるのは副詞(slowly, hard, even, very)と、副詞相当語、たとえば副詞句(like an orange)、副詞節などである。副詞的修飾語は連用修飾語に相当する。

このように、修飾語の概念や種類については日本語と英語に大差はない。しかし、句の見方や、修飾語の配置・語順については、日英ではかなり異なる。

句の見方
句について、日本人が「修飾語」と「被修飾語」の組み合わせと見るのに対して、英米人は「修飾語」と「主要語」の組み合わせと見る。たとえば、「赤い花」(red flowers)の場合、

日本語 → 「赤い」が修飾語で、「花」は被修飾語。
英語 → ”red” が修飾語で、”flowers” は主要語(head)。

主要語(head)とは何か
英語では被修飾語を主要語(ヘッド)と呼ぶ。head は頭(あたま)を意味するが、頭(かしら)や主導者、主要語の意味もある。「被修飾語」という呼び名は客観的だがどこか弱弱しい感じがあるのに対して、「ヘッド」は単語間の主従関係を明確に示し、いかにも力強い。「赤い花」の場合、文法的には「赤い」より「花」の方がエライのだ。

head:  → OALD7英英辞典から引用
the central part of a phrase, which has the same grammatical function as the whole phrase. In the phrase ‘the tall man in a suit’, man is the head.

【筆者訳】 主要語(head)とは句の中心を成す語で、その句全体の文法的機能を左右する。たとえば、「スーツを着た背の高いその男性」という句では、「男性」が主要語である。

修飾語の配置
修飾語の配置について、日本語ではすべての修飾語が常に被修飾語の前に置かれるのに対して、英語では、修飾語は主要語の前後に置くことができる。言い換えると、日本語の修飾語は前置修飾語の一種類しかない、一種類しかないので、わざわざ「前置」という語を付ける必要もない。これに対して、英語の修飾語は前置修飾語(premodifier)と後置修飾語(postmodifier)の二種類がある。

日本語では、修飾語はすべて被修飾語の前に置く
連体修飾語: 赤い花、遠い国、静かな街、この本、私の親友
連用修飾語: ゆっくり歩く、かなり遠い、とても静かだ 美しく咲く

英語では、修飾語は主要語の前に置くものと後に置くものの二種類がある
形容詞的修飾語: a pen, the pen, a stone house, a nice house, a dog with a short tail
*この例では、前置修飾語(a, stone, nice)、後置修飾語(with a short tail) となる。
副詞的修飾語: walk slowly, work hard, it looks like an orange, even more, very hard
*この例では、前置修飾語(even, very)、後置修飾語(slowly, like an orange) となる。

複合修飾語の語順
「スーツを着た背の高いその男性」という句には、「スーツを着た」「背の高い」「その」など、修飾語が複数ある。こうした複合修飾語に、少し強引だが、「風貌が高倉健にそっくりな」という長い修飾語と、「堂々たる」という短い修飾語を新たに追加すると、全体の語順はどうなるのだろうか。

日本語では複合修飾語の語順は、「長さの順」「句を先に」並べるのが原則。「風貌が高倉健にそっくりな」が一番長い修飾語なので先頭に、「その」が一番短い修飾語なので後尾に来る。したがって全体の語順は、「風貌が高倉健にそっくりな」「スーツを着た」「背の高い」「堂々たる」「その」 男性、となる。

「風貌が高倉健にそっくりなスーツを着た背の高い堂々たるその男性」
The dignified tall man in a suit who looks like Ken Takakura

英語では修飾語の語順は、冠詞+意見形容詞+事実形容詞がふつうの語順だ。英語には事実形容詞 (fact adjective) と意見形容詞 (opinion adjective) があり、新しい・大きい・丸い・木製の (new/large/round/wooden)は事実形容詞で、よい・美しい・おいしい・興味深い (nice/beautiful/tasty/interesting) は人の考えを述べた意見形容詞。通常、意見形容詞が先にくる。

前置修飾語: “The”( 冠詞), “dignified”(「堂々たる」、意見形容詞), “tall”(事実形容詞)
後置修飾語: ”in a suit”, “who looks like Ken Takakura”
ちなみに、in a suit は形容詞句、who looks like Ken Takakura は関係代名詞が導く形容詞節。
[PR]
by LanguageSquare | 2017-05-18 11:37 | エッセー | Comments(4)
Commented by アスナロウ at 2017-05-19 21:07 x
「ことば」について検索していて貴ブログを読ませていただきました。

 修飾語といい、機能語というのは現在の形式主義、機能主義的言語観の欠陥を表す用語ではないでしょうか。

機能だけあって本質を持たないものはなく、修飾とは単なる機能的な捉え方で、述語は主語を修飾することになります。これは論理的帰結ですから、修飾という概念それ自体を反省しない限り不可避的に出てくる結論です。

つまり、言語とは何か、その本質を明かにし、そこから語の本質を明らかにし、文、文法も明らかにしないと、意味をもたず、文法的機能を果たす語というような頓珍漢な発想になりかねないのではないでしょうか。■
Commented by LanguageSquare at 2017-05-20 15:43
コメント、ありがとうございます。

ことばの構造、機能性、意味などに着目し、それぞれの特質や一定の決まりを明らかにすることは有益です。伝統的な文法は、文の構造・用法の法則を体系化しており、それなりに有用です。修飾語は普遍的な概念であり、その文法(語順など)を理解することは、実際、日常生活で役に立ちます。

機能だけあって本質(内容)を持たないものは存在します。それが機能語です。
機能語とは何か
http://langsquare.exblog.jp/21810363/
単語は大ざっぱに内容語と機能語の2つに分類することもできる。内容語(content word)は名詞・形容詞・動詞・副詞のように実質的な内容を表すことばで、機能語(function word)は代名詞・前置詞・接続詞・助動詞・限定詞(a, an, the, your, their)などのように、文法的な関係や話し手の事態のとらえ方を表すことばである。
一般に、内容語は時代を反映するので意味・ニュアンスが変容したり、新語の誕生で語彙数が増加する傾向にあるが、機能語は現代ほぼ完成しており、語彙数が増えることはない。たとえば、英語の前置詞・冠詞・接続詞は近代以降、著しい変化はない。日本語の機能語(助詞)も同様に、奈良・平安時代から基本的に著しい変化はない。 (以上、引用終わり)

言語とは何か、その本質を明かにし、そこから語の本質を明らかにし、文、文法も明らかにする、という理念には異論はありませんが、では、具体的な成果は?研究論文は発表されていますか?
もちろん私も、伝統的な文法が完璧などとは思ってもいませんが。(松野)
Commented by アスナロウ at 2017-05-28 18:30 x
早速の丁寧な応答ありがとうございます。

そもそも、音声やインキやドットの集合という物理的存在が機能を持つというのは言語言霊論という観念論的発想ではないでしょうか。猫がキーボードを押し「a」という文字が表示された時、それが「一つの」という意味を持つわけではありません。
「a」「that」が機能を持ち、「は」「が」が機能を持つとはそういう発想でしかないのではないでしょうか。
 それでは、「が」と「は」の相違は明らかにならないのは必然と考えますが、いかがでしょうか。■
Commented by LanguageSquare at 2017-05-30 15:26
> アスナロウさん
音声やインキやドットの集合(=文字)という物理的存在は、その言語を理解するヒトに対して、機能します。

ことばの機能
http://langsquare.exblog.jp/8244333/

ことばには、神秘な力がある。
暗示力を体験する簡単な方法は、たとえば、ゴキブリの大嫌いな人に、「あれー、ここにゴキブリがいる!」と迫真の演技で叫ぶとよい。相手は「キャー!」とびっくりして、とびのくはず。タイミングが絶妙だと、その人の両腕に鳥肌さえ立つこともある。ゴキブリという実体がなくても、「ゴキブリ」ということばに人は反応する。これが暗示の効果である。暗示はことばの虚構性に依存しているので、ことばを持たない生物には通用しない。

ハとガの違い
http://langsquare.exblog.jp/8266357/

a: インドのナラシマ・ラオ外相は17日午後6時前、大阪空港着の日航機で来日した。
(「毎日新聞」1982年4月18日)

b: インドのラオ外相が17日午後6時前、大阪空港着の日航機で来日した。
(「朝日新聞」1982年4月18日)

このaとbを、どちらでもいい2つの形式の間を表現者が「ゆれ」ているのだととらえる研究者もいます。
しかし、これはどちらでもいい2つの形式が「ゆれ動いている」のではなく、aは、インドのラオ外相が来日することはすでに知られていて、予定に入っていたが、その外相はどうなったかというと、「17日に来日した」という文です。bは、インドのラオ外相が来日したという事件が起きた、新情報だぞという趣旨で文をまとめたのです。
aは問答形式で、静態的記述になっており、bは動態的、新事実発見的に書いたのです。

ハとガの使い分け:
ハは、ハの上が問題 (topic) で、ハの下に答え(新情報)が来る
ガは、ガの上に新情報が来る

構造言語学; 
言語はばらばらな成分の寄せ集めではなく,一定の構造・体系をもつものである,という想定のもとに,その構造と機能を研究しようとする言語学。この意味では,現在の言語学はほとんどすべて,多かれ少なかれこの観点に立っている。(ブリタニカ国際大百科事典 小項目版 2011)

以上、ご参考までに。(松野)